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Docs09. ビジネス実務ユースケース発見と要件定義

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ユースケース発見と要件定義

この記事の目的

「Agent で何をやるか」を業務の棚卸しから発見・選別し、着手前に成功基準と期待値をステークホルダーと合意できるようになります。Agent 案件の成否は技術力より題材選びと合意形成で決まることが多く、本記事はその最初の分岐を扱います。

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前提知識

本文

概要

ユースケース発見から着手までは、次の 4 段階で進めます。いきなり「作りたいもの」から始めるのではなく、業務の棚卸しから候補を出し、条件で絞り、要件と成功基準を文書化してから着手します。

ユースケース発見と要件定義: 概要の図ユースケース発見と要件定義: 概要の図
ユースケース発見と要件定義: 概要の図
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ユースケース発見と要件定義: 概要の図ユースケース発見と要件定義: 概要の図

この段階を飛ばした案件は、「デモはできたが誰の何を解決するのか分からない」「完成したのに評価基準がなく本番化を判断できない」という形で後から止まります。

Agent に向く仕事・向かない仕事

候補を選別する最初のフィルタです。技術的な作り方の判断(Workflow 型 vs Agent 型)の前に、そもそも LLM ベースの自動化に向く業務かを判定します。

向く条件なぜ効くか確認の仕方
結果を検証できる誤りを検知・修正できないと品質を保証できない正解データ・チェック手順・レビュー担当のいずれかが存在するか
手順が毎回変わる(判断を含む)手順が完全に固定なら、定型操作の自動化ツール(RPA)やスクリプトの方が確実で安い担当者に「例外はどのくらいあるか」を聞く
失敗の損害が限定的、または人のレビューで回収できるAgent の誤りはゼロにできない最悪の誤りが起きたときの影響を 1 文で書けるか
必要な情報・ツールにプログラムからアクセスできるデータが紙・画面キャプチャ・属人記憶にしかないと精度以前の問題になるAPI・DB・ファイルでの取得経路を列挙できるか
人が現に時間を使っている使う人がいない自動化は価値を測れない頻度と 1 件あたりの所要時間を概算できるか

逆に、次のような業務は(少なくとも最初の案件としては)向きません。

  • 検証不能な高リスク判断: 与信の最終判断、医療上の診断など、誤りの検知が難しく損害が大きいもの
  • 100% の正確性が前提の処理: 会計仕訳の転記そのものなど。決定的なコードで書くべき処理です
  • 厳しい応答時間が求められる処理: LLM の呼び出しを重ねる Agent はレイテンシが読みにくい(レイテンシ最適化)
  • データがデジタル化されていない業務: 先にデータ整備が必要で、Agent 案件としては時期尚早

候補の発見と優先順位付け

発見は「AI で何ができるか」ではなく「人がどこに時間を使っているか」から始めます。宝庫になりやすいのは次の場所です。

  • 問い合わせ対応のログ・チケット管理システム(同型の質問が繰り返されている領域)
  • 定型レポート・議事録・下書き作成(成果物の型が決まっている作業)
  • 転記・照合・コピペ(複数システムをまたぐ手作業)
  • 引き継ぎ資料・手順書(手順が文書化されている = 要件定義の素材が既にある)

候補は「誰の・どの業務の・どの部分を・どこまで任せるか」の 1 文で記述します。「営業事務の見積もり作成業務のうち、過去見積もりの検索と下書き作成までを任せる(送付判断は人)」のように、範囲と自律性を含めるのがポイントです。

優先順位付けは価値と実現性の 2 軸で行います。

  • 価値 = 頻度 × 1 件あたりの時間 × 担当人数(+ 品質・速度の改善効果)
  • 実現性 = 検証可能性・データアクセス・失敗許容度(上の表の条件をどれだけ満たすか)

最初の 1 件は「価値が中程度でも実現性が高い」候補を選びます。最初の案件の役割は投資回収ではなく、組織としての実績づくりと評価・運用の型づくりだからです。価値最大の本丸は、型ができた 2 件目以降に回します。

要件定義の型

Agent 案件の要件定義は、従来のシステム要件に加えて「人の関与」と「失敗の扱い」を最初から含める必要があります。最低限、次の 8 項目を埋めます。

項目書くこと例(問い合わせ一次対応 Agent)
トリガーいつ・何をきっかけに動くか問い合わせフォームの受信時
入力何を受け取るか(形式・ソース)問い合わせ本文 + 顧客情報 + FAQ データベース
出力何をどこへ出すか回答の下書きをサポートツールに保存
完了条件何をもって 1 件完了とするか下書き保存 or 「回答不能」の判定
自律性の範囲どこまで任せ、どこから人か下書きまで。送信は人が承認
人の関与点承認・レビュー・エスカレーションの設計全件レビュー(将来は抜き取りに移行)
データ要件アクセス権・機微度・ログの扱い顧客情報は参照のみ。会話ログの保持方針は情報セキュリティ部門と合意
失敗時の扱い誰がどう気づき、どう処理するか判定不能時は人のキューへ。誤回答は修正内容を記録して改善に使う

「自律性の範囲」は要件の中核です。Human-in-the-Loop 設計の関与パターン(事前承認・事後レビュー・エスカレーション)から選び、将来引き上げる計画(例: 全件レビュー → 抜き取り監査)も含めて書いておくと、本番化後の拡張がスムーズになります。

成功基準と期待値の合意

成功基準は着手前に数値で決めます。あとから決めると「動いたから成功」に流れ、本番化・継続の判断ができなくなります。

  1. ベースラインを測る(現状の処理時間・件数・品質。測っていなければ 1〜2 週間のサンプル計測から)
  2. 目標を数値で置く(例: 一次回答の 60% を下書き自動化、人の修正率 30% 以下、1 件あたりコスト X 円以下)
  3. 測定方法を決める(何のログで、誰が、いつ測るか → Agent 評価の基礎)

期待値の合意は「魔法ではない」の共有です。少なくとも次の 3 点を、着手前にステークホルダーへ明示します。

ステークホルダーごとに関心が異なる点にも注意します。現場担当者は「仕事を奪われるのか・使いにくくないか」、管理職は「投資対効果」、情報システム・セキュリティ部門は「データがどこへ行くか」を見ています。それぞれの関心に対応する説明(役割の変化、成功基準、データフロー図)を用意しておくと合意が速くなります。

実務での注意点

アンチパターン

  • 「AI で何かやれ」からデモ映えする題材を選ぶ → 誰の時間も減らさず、PoC 止まりで終わる → 業務の棚卸しと価値 × 実現性の評価から選ぶ
  • 一番困っている(= 最高難度・高リスク)業務を最初の案件にする → 失敗して「AI は使えない」という組織記憶が残る → 最初は実現性の高い題材で実績と型を作り、本丸は 2 件目以降に回す
  • 成功基準を決めずに作り始める → 完成しても良し悪しを判定できず、本番化も撤退も決められない → ベースライン計測と数値基準を着手前に合意する
  • 「全自動化できます」と約束する → 最初の誤りで信頼が崩壊し、案件ごと止まる → 誤り前提の運用設計と段階的な自律度引き上げを最初に説明する

チェックリスト

  • 候補を「誰の・どの業務の・どの部分を・どこまで任せるか」の 1 文で記述した
  • 向き不向きの 5 条件(検証可能・手順変動・失敗許容・データアクセス・利用実態)を確認した
  • 価値と実現性で優先順位を付け、最初の 1 件は実現性を優先した
  • 要件定義の 8 項目(特に自律性の範囲・人の関与点・失敗時の扱い)を埋めた
  • 機微データの範囲とアクセス権を情報セキュリティ担当と確認した
  • 成功基準を数値で定義し、ベースラインを測定した(または測定計画がある)
  • 「誤りは必ず起きる」前提と段階的な自律度引き上げをステークホルダーと合意した

関連トピック

参考資料

TODO・未確認事項

なし