この記事の音声は準備中です。
音声の一覧・再生リストへAI Agent とは何か
この記事の目的
「Agent」という言葉のブレを整理し、(1) 自分が作ろうとしているものが Agent なのか、そうでないもので足りるのかを判断できる、(2) Agent の類型と自律性の度合いをチーム内の共通言語として使える、という 2 点をゴールにします。
対象読者
- LLM API の利用経験はあるが、Agent 的な設計(ツール使用LLM が外部機能の呼び出し要求を出し、アプリケーションまたはプロバイダーの実行基盤が検証・権限に従って実行し、結果をモデルへ返す仕組み。実行主体と制御点を区別する Agent の中核機構。・自律ループ)はこれからのアプリケーションエンジニア
- 「Agent を作りたい」という要件を受け、実現方式を判断する立場のテックリード
前提知識
- AI Agent 学習ロードマップ — このライブラリの読み進め方
- LLM API の基本(システムプロンプト、チャット履歴、トークンの概念)
本文
概要: このライブラリでの定義
このライブラリでは AI Agent を次のように定義します。
AI Agent とは、LLM を判断の中枢に置き、ツールを使いながら、目標達成までの手順を実行時に自律的に決めて実行するシステム
重要なのは「手順を実行時に自分で決める」という点です。処理手順を開発者がコードで固定し、LLM を各ステップの部品(分類・要約・生成など)として使う構成は、このライブラリでは Workflow 型処理手順を開発者がコードで固定し、LLM を各ステップの部品(分類・要約・生成など)として使う構成。Agent との対比概念。(workflow) と呼んで Agent と区別します。
2026 年時点でも業界での「Agent」の定義は揺れており、マーケティング上は Workflow 型のプロダクトも「Agent」と呼ばれることがあります。実務で重要なのはラベルではなく、システムにどれだけの自律性を与えるかという設計上の選択です。
詳細: Agent を構成する 4 つの要素
図を元の大きさで表示
図の中をスクロールして読めます。キーボードでは図の領域へ Tab で移動し、矢印キーを使います。読み終わったら、この見出しをもう一度選ぶと閉じます。
| 要素 | 役割 | 詳細ドキュメント |
|---|---|---|
| LLM | 状況を観測し、次の行動を決める判断の中枢 | — |
| ツール使用(tool use) | 検索・API 呼び出し・コード実行など、外界への働きかけ | tool-use.md |
| Agent ループLLM が「観測 → 思考 → 行動」のサイクルを繰り返し、完了・失敗・上限のいずれかの停止条件まで自律的に処理を続ける制御構造。(agent loop) | 「観測 → 思考 → 行動」を繰り返し、完了・失敗・上限で止める制御 | agent-loop.md |
| メモリAgent が「覚えている」ように見えるデータの総称。短期記憶(コンテキスト)・作業状態・長期記憶(外部ストレージ)の 3 層に分けて設計する。 / 状態 | 会話履歴・中間成果物・長期記憶の管理 | memory-and-state.md |
この図はアプリ実行型です。アプリは実行経路で権限・引数・承認を検証し、メモリの読み書きも制御します。権限制御とガードレールモデルの判断の外側でコードとして強制される制御。入力・出力・アクションの 3 層に配置し、プロンプトでの指示(お願い)と区別される。は最初から実行経路に置く必須部品です。プロバイダー側が実行するツールの制御点は ツール使用で区別し、監視は 05-operations で扱います。
詳細: 自律性のスペクトラム
「Agent かどうか」は二値ではなく、自律性の度合いのスペクトラムで捉えると設計判断に使えます。
| 段階 | 手順の決め方 | 予測可能性 | 柔軟性 | コスト / デバッグ性 |
|---|---|---|---|---|
| 固定パイプライン(Workflow 型) | すべてコードで固定 | 高い | 低い | 低コスト / 容易 |
| ルーティング | 分岐先の選択のみ LLM が判断 | 高い | 中 | 低コスト / 容易 |
| 単一 Agent ループ | 手順・ツール選択を LLM が実行時に決定 | 中 | 高い | 中〜高コスト / 難しい |
| マルチエージェント複数の Agent ループが、それぞれ独立したコンテキストを持って分担・協調する構成。 | 複数の Agent が分担・協調 | 低い | 最も高い | 高コスト / 最も難しい |
右に行くほど扱える問題は広がりますが、予測可能性・コスト・デバッグ性を差し出すことになります。左で足りるなら左を選ぶのが原則です(詳細は Workflow 型 vs Agent 型の使い分け)。
詳細: Agent の 3 類型
実務で出会う Agent は、行動する対象によって大きく 3 つに分類できます。
| 類型 | 観測と行動の対象 | 例 | 特有のリスク・考慮点 |
|---|---|---|---|
| 会話型 | 自然言語の対話 + 限定的なツール | サポートチャットボット、社内ヘルプデスク | 会話履歴の肥大、話題の脱線、根拠のない回答 |
| ツール実行型 | API・コード・データ | コーディング Agent、データ分析 Agent、調査 Agent | 誤操作の影響範囲、ツール権限の設計、実行時間 |
| コンピュータ操作型(computer use) | 画面(スクリーンショット)とマウス・キーボード操作 | ブラウザ操作 Agent、GUI 業務の自動化 | 誤クリックの実害、処理の遅さ、画面経由の間接的な攻撃(詳細は computer-use-and-multimodal-agents.md) |
類型によって、必要なサンドボックスモデルが生成したコードの実行やコンピュータ操作を、本番システムから隔離された使い捨て環境(ネットワーク・資源制限付き)で行う仕組み。・評価方法・レイテンシ特性が大きく変わります。要件定義の段階でどの類型かを明確にしてください。
設計判断: 「Agent が必要か」から始める
最初に問うべきは「Agent をどう作るか」ではなく「Agent が必要か」です。
- 単一の固定手順で処理できる → 固定パイプラインで作る
- 入力の種類ごとに固定手順を用意でき、振り分けだけ判断が要る → ルーティングを足す
- 手順が入力によって大きく変わる・探索的で事前に列挙できない → Agent ループを検討する
具体例で比べます。「先月の出張費はいくら精算されましたか?」という社内問い合わせに答えるシステムを考えます。
- 固定パイプライン: 問い合わせを分類 → 経費 API を呼ぶ → 結果を整形して返す。手順はコードで固定
- Agent: 経費 API・社内規定検索・担当者へのメール送信をツールとして渡し、必要な手順を LLM が決める。曖昧な質問への追加確認も自分で判断する
この例では問い合わせのパターンが安定しているため、固定パイプラインで十分です。Agent が正当化されるのは「精算が却下された理由を調べて、規定と突き合わせて、再申請の下書きまで作ってほしい」のような、手順が可変で探索的なタスクです。
実務での注意点
アンチパターン
- 「とりあえず Agent 化」 → 固定パイプラインで足りるタスクを Agent にすると、コスト・レイテンシ・不安定さだけが増える → 上の設計判断フローを先に通し、自律性は必要最小限にする
- 自律性の上限を決めずに作り始める → ループ回数・実行時間・使えるツールが無制限の Agent は、暴走時の影響範囲を見積もれない → 停止条件(最大ステップ数・タイムアウト・コスト上限)とツール権限を最初に設計する
- デモの成功率で本番投入を判断する → デモは成功しやすい入力を選びがちで、実運用の分布とずれる → 投入判断の前に評価設計(Agent 評価の基礎)を行う
チェックリスト
Agent という方式を採用する前の確認:
- タスクの手順を事前に列挙できないことを確認した(列挙できるなら Workflow 型にする)
- Agent の類型(会話型 / ツール実行型 / コンピュータ操作型)を特定した
- 使えるツールと権限の一覧を書き出した
- ループの停止条件(最大回数・タイムアウト・コスト上限)を決めた
- 失敗時に人間へエスカレーションする経路がある
- 品質をどう測るかを実装前に決めた
関連トピック
- AI Agent 学習ロードマップ — 本記事の次に読む記事の選び方
- AI の歴史と系譜(深層学習から Agent まで) — 「なぜ今エージェントなのか」を系譜でつかむ背景記事
- Agent ループ — 「観測 → 思考 → 行動」ループの動作原理
- ツール使用 — ツール使用の仕組みと設計
- Workflow 型 vs Agent 型の使い分け — 本記事の設計判断をトレードオフ表で詳細化
参考資料
- Building Effective Agents(Anthropic) — Workflow と Agent の区別、「シンプルな構成から始める」原則の出典(アクセス日: 2026-07-05)
- LLM Powered Autonomous Agents(Lilian Weng) — プランニングタスクをステップに分解し、実行順序を決め、進捗に応じて見直す働き。逐次判断・事前計画・リフレクションの 3 パターンが基本形。・メモリ・ツールという構成要素の古典的な整理(アクセス日: 2026-07-05)