Skip to Content
Docs06. セキュリティエージェントの認証・認可

この記事の音声は準備中です。

音声の一覧・再生リストへ

エージェントの認証・認可

この記事の目的

「このエージェントは誰として動くのか」を設計できるようになります。エージェント自身の ID、ユーザーからの委任、権限の最小化、行為の帰属(誰の責任か)、資格情報の受け渡しという 5 つの問いに分解し、2026-08 時点の標準化状況(専用標準は未成立)を踏まえた実務の組み立て方を扱います。

対象読者

  • エージェントに社内システム・外部 API へのアクセスを与える設計を担当するエンジニア
  • エージェント導入のセキュリティレビューで「アカウントと権限をどうするか」を判断するセキュリティ担当・アーキテクト

前提知識

本文

最終確認日: 2026-09-10 — OAuth ドラフト、OpenAI Connectors、Google auth manager、Okta XAA の差分を確認しました。その他の標準・機能は各参考資料の従来の確認日を参照してください。調査記録は research/professional/agent-identity.md にあります。

概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解する

従来のシステムの主体は「人間」か「サービス(機械)」の二分でした。エージェントはその中間にいます — 機械でありながらユーザーの代理で判断・行動し、しかも入力次第で騙され得る主体です。この設計は次の 5 つの問いに分解できます。

  1. 認証(authentication): エージェント自身をどう識別するか(エージェント個別の ID)
  2. 委任(delegation): 誰の代理として動くのかをどう表現するか
  3. 認可(authorization): 何をしてよいか、権限をどう最小化するか
  4. 帰属(attribution): 行為を誰の責任として記録・監査するか
  5. 資格情報(credentials): ツール・外部サービスへの鍵をどう安全に渡すか
エージェントの認証・認可: 概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解するの図エージェントの認証・認可: 概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解するの図
エージェントの認証・認可: 概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解するの図
図を元の大きさで表示

図の中をスクロールして読めます。キーボードでは図の領域へ Tab で移動し、矢印キーを使います。読み終わったら、この見出しをもう一度選ぶと閉じます。

エージェントの認証・認可: 概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解するの図エージェントの認証・認可: 概要: 「誰として動くのか」を 5 つの問いに分解するの図

2026-08 時点で「AI エージェント専用」の認証・認可標準は存在せず、既存の OAuth 部品(トークン交換・委任クレーム)の組み合わせが実務解です。標準の現在地は後述の「標準化の動向」にまとめます。

2 つのアイデンティティモデル

エージェントの ID 設計は、大きく 2 つのモデルから選びます。

サービスアカウント型(自律)ユーザー代理型(on-behalf-of)
動作エージェント自身の権限で動く(定期バッチ・自動処理)特定ユーザーの委任を受けて動く(アシスタント・対話型)
アクセス範囲エージェントに付与した固定の権限ユーザーの権限とエージェント許可の交差(後述)
向く場面特定ユーザーに紐づかない処理。入力が信頼できる範囲に閉じる処理ユーザーごとにアクセス範囲が違う処理。個人データを扱う処理
主なリスク権限が固定で広くなりがち。「誰のための処理か」がログから消えやすい委任の設計を誤ると、ユーザーへのなりすましと区別できなくなる

判断の軸は 2 つです。アクセス範囲がユーザーに依存するか(依存するならユーザー代理型でないと権限管理が破綻します)と、行為の責任を誰に置くか(自律型はエージェントの責任者に、代理型は委任したユーザー + 責任者に帰属します)。

最悪の設計は「全ユーザー・全エージェント共有の強力なサービスアカウント 1 つ」です。全員の権限の和集合を持つ単一アカウントは、権限の最小化・帰属・失効のすべてを不可能にします。エージェントごとに固有の ID を発行するのが出発点です(このため主要各社はエージェント個別 ID の管理機能を製品化しています。後述)。

トークンと委任の設計

ユーザー代理型の核心は、「ユーザーそのもの」と「ユーザーの代理をするエージェント」をトークン上で区別することです。OAuth 2.0 Token Exchange(RFC 8693)はこの区別を標準語彙で提供します。

  • なりすまし(impersonation): エージェントがユーザーと見分けが付かないトークンを持つ。下流のシステムは相手がエージェントだと分からない
  • 委任(delegation): トークンの subject(誰の代理か)と actor(実際に行動する主体 = エージェント)が分離され、act クレームで「委任が起きたこと」と「現在のアクター」が表現される。多段の委任(ユーザー → アプリ → エージェント)もネストで表せる

実務の原則は 「委任を選び、なりすましを避ける」 です。エージェントは外部入力に騙され得るため(プロンプトインジェクション)、下流システムとログが「これはエージェントの行為だ」と識別できることが、レート制限・追加検証・インシデント調査のすべての前提になります。

あわせて、トークンは 短寿命(漏えい時の窓を狭める)、スコープ最小(次節)、対象限定(audience を特定のサービスに限定し、他所で使い回せなくする)を基本とします。なお「on-behalf-of(OBO)フロー」という名称は特定ベンダーの実装名で、IETF 側の一般形は RFC 8693 です — ドキュメントを読むときはこの対応を頭に置くと混乱しません。

権限の交差と最小化

ユーザー代理型でやりがちな誤りは、ユーザーの権限をそのまま全部エージェントに渡すことです。人間には「変な指示は無視する」判断力がありますが、エージェントは間接プロンプトインジェクションモデルへの入力に紛れ込ませた指示で、開発者の意図した挙動を上書きする攻撃。ユーザー入力による直接型と、Agent が読む外部コンテンツ経由の間接型がある。で攻撃者の指示を実行し得ます。つまり エージェントに渡した権限は、すべて攻撃面になる 前提で設計します。

  • 交差(intersection): エージェントの実効権限 = ユーザーの権限 ∩ エージェントに許可した操作、にします。「ユーザーができること」ではなく「このエージェントの職務に必要なこと」が上限です
  • タスク単位に絞る: 常時フルスコープではなく、タスクの種類に応じたスコープでトークンを発行します。MCPツールやデータソースを LLM アプリケーションに接続するための標準プロトコル。概要は ツール使用、接続の実務は ツール接続標準(MCP とエコシステム) の認可仕様にも、必要になった時点でスコープを追加要求する段階的同意(step-up)が入っています(2025-11-25 版で導入され、現行 2026-07-28 版でも維持)
  • 高リスク操作は権限で解決しない: 送金・削除・外部送信のような操作は、スコープを与えた上で人間の承認を挟みます(Human-in-the-Loop 設計)。認可の標準側でも、人間の非同期承認を組み込むアプローチ(CIBA 等)が製品化されています
  • ツール層との分担: 本記事のアイデンティティ層(誰として・どのスコープで)と、ツール権限設計とサンドボックスのツール層(どのツールを・どの引数制約で)は重ねて使います。どちらか一方では守れません

監査と帰属

「誰がやったのか」に答えられないエージェントは、本番に置けません。

  • actor と subject を両方記録する: すべての行為ログに「どのエージェントが(actor)」「誰の委任で(subject)」「どのタスク・セッションで」を残します。委任チェーンをトークン(act クレーム等)に刻んでおくと、下流システムのログにも自然に残ります
  • 人間の責任者を紐づける: エージェント ID には所有者(owner)となる人間・チームを必ず割り当てます。作った人が異動・退職した「野良エージェント」は、権限を持ったまま管理不能になります。ID 管理製品がエージェントにオーナー・スポンサーを紐づける機能を持つのはこのためです
  • 人間と区別できるログにする: 監査ログ上でエージェントの行為が人間の操作と混ざると、不正調査もインシデント対応も止まります。エージェント ID を独立したプリンシパルとして扱い、フィルタできるようにします(可観測性とトレーシング のトレースと突き合わせられるとさらに強力です)
  • 失効を設計する: 責任者の異動・エージェントの廃止・インシデント時に、トークンと資格情報を即座に無効化できる手順を用意します(インシデント対応のキルスイッチインシデント時にデプロイなしで Agent を止める・自律度を下げるための、事前に用意された停止手段。全停止・縮退・ツール単位の無効化など粒度を分けて設計する。の一部です)

資格情報の受け渡し

エージェントは多数のツール・外部サービスの鍵を必要としますが、モデルが読める場所に鍵を置いてはいけません。プロンプト・ルールファイルコーディングエージェントがセッション開始時に読み込む、プロジェクト固有の指示書(AGENTS.md・CLAUDE.md など)。恒常的な規約を毎回の依頼文から分離する。・会話履歴に入れた資格情報は、インジェクションや出力経由で漏えいします(データ漏えい対策)。

  • vault + 実行時注入: 資格情報は専用の保管庫(vault)に置き、ツール実行の瞬間にアプリ側コードが注入します。エージェントにはプレースホルダしか見せず、外部への送信時に実値へ差し替える実装(エグレス時差し替え)なら、モデルは一度も実値を見ません
  • トークンの自動管理: OAuth のリフレッシュトークン管理(取得・更新・失効)をアプリ側や token vault サービスに寄せ、エージェントのループ内でトークンを扱わない構成にします
  • ツールごとに個別の資格情報: 全ツール共通の 1 つの鍵は、1 箇所の漏えいで全体が破られます。ツール・接続先ごとにスコープの狭い鍵を分け、影響範囲(blast radius)を限定します
  • MCP サーバーへの認可: MCP の認可仕様は OAuth ベースで、リソースサーバー(MCP サーバー)と認可サーバーの分離、トークンの対象(audience)検証、そして 受け取ったトークンをそのまま上流 API へ転送する「トークンパススルー」の禁止を定めています。パススルーは、権限のない主体が権限のある仲介者を悪用する混乱した代理人(confused deputy)問題の典型経路です(ツール接続標準(MCP とエコシステム))
  • 長寿命 API キーからの脱却: 静的な API キーを配るのではなく、実行環境の ID から短寿命トークンへ交換するフェデレーション(workload identity federation)を使うと、「漏れる鍵」自体をなくせます。使う場合のキーはシークレットマネージャ保管 + 定期ローテーションが最低線です

標準化の動向(2026-08 時点)

変化が速い領域なので、「何が確定していて、何がまだ動いているか」を分けて把握します。

確定している土台:

  • OAuth 2.0 Token Exchange(RFC 8693、2020 年発行): subject / actor の分離、act / may_act クレームによる委任チェーン表現。エージェント委任の実務の基礎語彙です

採択済み・成立が近い標準(いずれも 2026-08 時点で IETF ドラフト):

  • ID-JAG(Identity Assertion JWT Authorization Grant): 企業 IdP のアサーションを起点に別アプリのトークンを得る OAuth WG 採択ドラフトで、仕様の付録に AI エージェントのユースケースが明記されています。ID 管理ベンダーの「Cross App Access(XAA)」(著者と仕様構成から ID-JAG をベースにしているとみられます)は、MCP の公式認可拡張(Enterprise-Managed Authorization)に採用されました
  • identity-chaining: 複数トラストドメインをまたいでユーザー ID と認可を伝搬する仕様で、RFC 化の最終段階にあります
  • 一方、「AI エージェント専用」を掲げる提案(WIMSE ワーキンググループのエージェント系ドラフト、on-behalf-of-user 拡張など)は 2026-08 時点ですべて個人ドラフト段階で、うち on-behalf-of-user 拡張は既に失効(expired)しています。OAuth 2.1 自体もまだドラフトです

MCP の認可仕様(現行リビジョン 2026-07-28):

  • MCP サーバー = OAuth のリソースサーバーという整理、認可サーバーの分離、resource パラメータ必須、トークンパススルー禁止、事前登録なしクライアントの識別方式(CIMD)は、現行 2026-07-28 版でも維持されています。同版では動的クライアント登録(RFC 7591)が CIMD 優先の方針で正式に非推奨(Deprecated)となり(後方互換のため残置)、認可サーバー発行者の検証(RFC 9207 の iss 検証)が追加されました
  • 認可章はリビジョンごとに大きく変わってきた実績があるため、実装時は必ず バージョン付きの仕様 URL を参照し、更新を追う前提で設計します

主要ベンダーの提供状況(Google / Okta の差分は 2026-09-10 確認。他社は各出典日付を参照。詳細と出典は調査メモ参照):

提供元概要状況
Microsoft(Entra Agent ID)エージェント個別 ID(blueprint → agent identity)、条件付きアクセス・監査ログ、非対話の confidential client 設計GA(一部機能は Preview)
AWS(Bedrock AgentCore Identity)インバウンド / アウトバウンド認証の分離、OAuth トークン等の token vaultGA
Google Cloud(Agent Identity)エージェントに SPIFFE ID + 短寿命 X.509 を直接割り当て、証明書に束縛されたトークンを発行GA。Auth manager と Agent Identity APIs も 2026-08-22 GA
Okta / Auth0XAA(ID-JAG がベースとみられるクロスアプリ認可)、token vault、CIBA による非同期の人間承認段階的提供中
AnthropicAPI 認証のフェデレーション(SPIFFE・各社 IdP 対応)、エージェント用資格情報のエグレス時差し替え型 vault提供中

ここから読み取るべき実務上の含意は 2 つです。(1) 「エージェント個別 ID + 委任表現 + vault」という設計形はベンダー横断で収斂しつつあるので、この形で設計しておけば移植可能性が高い。(2) 個別の製品名・提供区分は 1 年以内に変わる可能性が高いので、設計文書では製品名でなく設計形(上の 5 つの問い)で書いておくのが安全です。

API 接続の OAuth と設定移行

OpenAI Responses API の Connectors は、アプリが取得した OAuth access token を MCP ツールの authorization に渡します。OAuth クライアント登録とユーザーの認可はアプリ側で実装します。スコープによって利用可能なツールも変わるため、許可した業務に必要な範囲だけを付与します。これは ChatGPT 画面の接続設定とは別の API 契約です。refresh・失効・再同意・トークン保管とログのマスキングまで実装時に検証します。

Google Cloud の Auth manager と Agent Identity APIs は 2026-08-22 GA、VPC Service Controls と組織制約は 8 月 14 日 GA と案内されています。新しい Agent Identity APIs と legacy IAM Connectors API の移行手順を確認し、単に名称を置き換えません。

Okta の 2026.08.0 Preview 環境向けリリースノートでは、Managed connection タブによる XAA 設定の廃止と Resource Server タブへの再設定を案内しています。削除後は既存設定が動かなくなるため、対象組織では移行を確認します。日付は upcoming release とされており、全環境の GA や確定停止日とは扱いません。

実務での注意点

アンチパターン

  • 全エージェント共有の強力なサービスアカウントで動かす → 権限最小化・帰属・失効がすべて不可能になり、1 つの漏えいが全権限の漏えいになる → エージェントごとに固有 ID を発行し、職務に必要な権限だけ与える
  • ユーザー権限をそのまま渡す(なりすまし型の委任) → インジェクションで騙されたとき、ユーザーの全権限が攻撃面になり、ログ上も人間の操作と区別できない → subject / actor を分離した委任 + 権限の交差にする
  • API キーをプロンプト・ルールファイル・コードに直書きする → モデル経由・リポジトリ経由で漏えいする → vault + 実行時注入(またはエグレス時差し替え)にし、モデルの可視範囲から鍵を消す
  • MCP サーバーで受けたトークンを上流 API へ使い回す(トークンパススルー) → audience 検証が壊れ、混乱した代理人問題の経路になる → 自分宛てトークンのみ受理し、上流へは自分の資格情報で接続する
  • 「標準が固まってから設計する」と先送りする → 専用標準の完成を待つ間、共有アカウントと直書きキーが本番に残り続ける → 確定済みの土台(個別 ID・RFC 8693 型の委任・vault)で今設計し、動く部分は定点観測で追従する

チェックリスト

  • エージェントごとに固有の ID があり、共有アカウントを使っていない
  • サービスアカウント型 / ユーザー代理型の選択理由が設計文書に書かれている
  • 委任トークンで subject(誰の代理か)と actor(エージェント)が区別されている
  • エージェントの実効権限が「ユーザー権限 ∩ エージェント許可」の交差になっている
  • トークンは短寿命・スコープ最小・audience 限定になっている
  • 高リスク操作にスコープだけでなく人間の承認ゲートがある
  • 資格情報が vault 管理され、モデルの可視範囲(プロンプト・履歴)に現れない
  • ツール・接続先ごとに資格情報が分離されている(blast radius の限定)
  • 監査ログでエージェント ID・委任元ユーザー・責任者(owner)を辿れる
  • エージェント ID・資格情報を即時失効できる手順がある

関連トピック

参考資料

TODO・未確認事項

変わりやすい項目(定点観測)

  • OAuth 2.1 の RFC 化(2026-09-02 版 draft-16。Internet-Draft であり RFC ではありません)
  • MCP 認可仕様の次期リビジョン(現行 2026-07-28。認可章はリビジョンごとに大きく変わる実績。CIMD・拡張仕様の扱い)
  • IETF のエージェント関連ドラフトの採択・失効(ID-JAG、identity-chaining の RFC 番号付与、WIMSE のエージェント系個人ドラフト)
  • 各社のエージェント ID 機能の提供区分(Google Cloud の個別制御の拡大、Okta XAA の Managed connection 設定移行と提供拡大)と製品名の再編